アビトゥーアについて

アビトゥーア(Abitur)ってどんな試験?

皆さんは、アビトゥーア(Abitur)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?日本の大学入試制度も他の国とはかなり異なっていますが、主にドイツやフィンランドで実施されている大学入学資格試験・アビトゥーアにも特殊な点があります。日本人にはあまり馴染みのないアビトゥーアについて、詳しく解説していきたいと思います。

アビトゥーアの概要、日本との違い

アビトゥーアは現在ドイツやその他のドイツ語圏(オーストリア・スイスのドイツ語圏ではマトゥーラMaturaと呼ばれている)、フィンランド、中欧スラブ圏で実施されており、高校卒業資格であると同時に、国内やその他のヨーロッパ各国で大学に進学するための資格試験でもあります。試験で一定の点数以上を取れば、ギムナジウム(ヨーロッパにおける中等教育機関のうちの一つ)での最後の2年間の試験成績と併せて“Zeugnis der Allgemeinen Hochschulreife(ドイツ語:一般的大学入学資格証明書)”を修得できます。

日本において大学に入学するためには、国公立大学であればまずは大学入試センター試験を受け、次に大学ごとの個別試験を受ける必要がありますし、私立大学でも同様に大学ごとの推薦入試や一般入試、AO入試を受けなければなりません。それに対してアビトゥーアは、この入学資格を一度修得すれば、試験の点数により規定される範囲の中でではありますが、自分が希望する大学に進学することができ、大学個別の試験は課されないという点で、まず日本とは異なります。

また、日本では大学受験1年目に希望する大学に合格することができなければ、その後浪人という形で何回でも試験に挑戦することができますが、アビトゥーアの場合そうはいきません。もう一度だけ受験するチャンスはありますが、2回目のアビトゥーアでも一定以上の成績(最高1.0~4.0)を取ることができなければ、大学入学への道は閉ざされ、路頭に迷うこととなるのです。ある意味、日本より厳しいと言えるかもしれません。しかし最近のドイツでは、アビトゥーアを持たずに大学に入学する人(職業訓練修了資格と職業経験数年があれば可能)が増えており、2010年では2万5000人だったのが2014年には4万9800人にまで増加しています。

一度アビトゥーアで大学に入学できる点数に達すれば、すぐに大学に入学する必要はなく、実際には社会経験などを数年経てからであったり、見聞を広めるべく世界旅行に出てから入学する人も多いようです。

日本においてもアビトゥーアは1995年に大学入学資格として認められており、18歳以上のアビトゥーア資格所有者(及びドイツにおいて12年の課程を修了した者)は日本でも大学進学できるようになっています。

ドイツの学校制度

アビトゥーアのお話の前に、まずはじめに少しドイツの教育制度についてお話ししたいと思います。日本では大学に進学する前には小学校6年間、中学校・高校それぞれ3年間の教育がなされますが、ドイツではまず、日本の小学校にあたる基礎学校(ドイツ語:Grundschule)は一部の学校を除いて4年間のみです。その後、卒業後に働きながら職業訓練を受ける学生や職業専門学校に進学したいという学生が進学する基幹学校(ドイツ語:Mittelschule/Hauptschule)、職業専門学校への進学したいという学生が進学する実科学校(ドイツ語:Realschule)、そして大学や技術系専門大学など高等教育を受けたいという学生が進学するギムナジウム(ドイツ語:Gymnasium)の3つの進路に分かれます。日本で小学校4年生にあたる年齢で、将来自分がどの道に進みたいかという岐路に立たされるというわけです。基礎学校の後にどの学校に進むかというのも、学校での成績や態度などをもとに先生と保護者によって決められることがほとんどだとのこと。2010年の調査によると、ギムナジウムに進んだ学生の親の約60%はアビトゥーアを取得しており、それが基幹学校に進んだ学生の親となるとわずか8%。親も高学歴であれば子どもにも同じ道を歩ませたいと思うのは、日本でもドイツでも変わりないのかもしれません。

日本では義務教育のうちは成績が悪いからといって落第させられたりすることはありませんが、ドイツでは義務教育のうちから落第制度があり、ストレートで卒業できるのは全体の約60%だと言われています。先ほどご紹介したように、基礎学校から次の学校への進学は保護者と先生とで決められることがほとんどなので、たとえ子どもの基礎学校の成績が悪くても、保護者の強い希望があればギムナジウムに進むことも可能ではあります。しかし、そのままの状態でギムナジウムに進んでも、一定の成績を収めることができなければ落第をしなければならないことも十分にあり得るのです。もともと大学進学を希望し、アビトゥーア受験を視野に入れてギムナジウムに進むのが一般的でしょうから、アビトゥーアで一定の成績を取れない可能性も高いのに無理に進級するのは本人も大変です。そのこともきちんとわかっているのか、落第が決まっても文句を言ったりする子どもは少ないのだとか。

ドイツにおけるアビトゥーア

アビトゥーアの試験科目は44科目で、その中で最低1科目は口頭試験を受験しなければなりません。筆記試験も選択問題ではなく、記述式のもので、試験時間も3時間以上かかるものがほとんどです。受験科目は必須科目以外は比較的自由に選択できるようになっていますが、例えば歴史を専攻したい学生の場合ラテン語、医学を専攻したい学生の場合、生物や化学は必ず選択しなければならないなど、希望する学部を念頭に入れて受験科目を選択しなければなりません。

ドイツ各州では2002年以降各州のアビトゥーアの成績統計を記録しているそうですが、各州統一でアビトゥーアを行うため、どうしてもレベルの低い学校に問題のレベルを合わせざるを得なくなるようで、アビトゥーアの成績優秀者が激増しており、「大学での学習を準備をする試験の役目を果たしていない」という指摘も見られます。アビトゥーアはドイツ全国統一のものではあるのですが、難易度には州ごとに差があると言われており、ミュンヘンが州都であるバイエルン州が最も難しく、ハンブルク州やブレーメン州、ニーダーザクセン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州が比較的簡単だとされています。この差を埋めるべく、2017年からは一部の教科で全国統一基準が導入されることになっています。

ドイツでの医学部受験

日本でも医学部に入学するには特に高い学力が必須であるとされていますが、これはドイツでも同様で、アビトゥーアの成績が1.0~1.2程度でないと合格は難しいとされているようです。しかし、アビトゥーアでそこまでの成績を取ることができなくても、医学部希望者にはアビトゥーアとは別にTMS(ドイツ語:Test für Medizinische Studiengänge、医学部適性試験)という試験も用意されています。この試験は医学部進学希望者が受けることのできる試験(義務ではない)で、アビトゥーアでは医学部合格までの成績を取るのは難しいけれど、医師としての適性がある学生を見つけ出すことを目的としたものです。ドイツの大学にある医学部は全部で35で、そのうち14の大学の医学部・7の大学の歯学部でTMSの成績を参考に入学選考を行っています。絶対に合格できるという保証はありませんが、TMSで優秀な成績を収めた場合は、アビトゥーアの成績にTMSの成績が加算され、医学部への合格可能性も高まります。ギムナジウムでの成績も含まれるとは言え、一発勝負のアビトゥーアでは失敗してしまう可能性もないとは言えませんし、それで医学部への道が断たれてしまうのは酷です。世界的に共通して言えることですが、成績が良ければいい医者になれるとも限りませんし、このような適性試験を医学部入学前に受ける機会があるのは非常に良いことではないでしょうか。また、日本でも医学部や薬学部などの医療系の学部、法学部、心理学部は人気が高いですが、これらの入学希望者が多い学部にはヌメルス・クラウズス(ラテン語:Numerus Clausus)と呼ばれる入学制限制度が適用され、入学までに1、2年待たなければならないこともあります。

フィンランドにおけるアビトゥーア

フィンランドのアビトゥーアの最大の特徴は、受験科目に保健科が存在し、しかも受験生に大変人気な科目だということです。同様の大学入学資格試験を実施しているヨーロッパの国々の中でも、保健科を全ての受験生が受験できる科目としているのはフィンランドのみ。保健科の試験は2007年から導入され、当時から受験生は多く、年々増え続けています。日本の試験問題のようにただ単に知識を問うのではなく、安楽死について倫理的観点から考察するなど、現代社会の中で直面する健康問題に関して根拠を基にしっかりと考えられるかどうかを問う問題がほとんどです。近年、世界中で命について考えさせられる出来事が多く起こっていますから、このような科目を導入するのは、学生たちにとってもそれらの問題に向き合う良い機会となりそうですね。

まとめ

ドイツのように若くして将来のことを考えるのは良いことではありますが、まだまだ好奇心旺盛で興味関心も変わりやすい時期に将来の道を選ばなければならないというのは、大変難しくもあるように感じられます。基礎学校からその次に進むのに、子どもたちの希望よりも保護者たちの考えが優先されることがほとんどだというのも、その年齢であれば仕方がないように思われます。ドイツの職人(マイスター)技術は上記でご紹介したような学校制度により受け継がれてきたとされますが、最近はこの学校制度による弊害の方が多くなってきているとされています。近年様々な変化を遂げつつあるドイツの学校制度、今後もアビトゥーアなどにも変化が見られる可能性もありそうです。

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